熊本日日新聞コラム「きょうの発言」記事
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鉄道に乗って温泉へ


 十、十一の両日、人吉市で「人吉温泉球磨焼酎まつり」があった。十日夜は市の目抜き通りでパレードがあり、十一日にはメーン会場の中川原公園でキャラクターショーやダンスなどがあり、にぎわった。
 まつりの二日間は、市内の公衆温泉は入浴料半額だった。実は私の実家は、父で三代目となる公衆温泉を経営している。その昔、公衆温泉といえば近所の情報交換の場としてにぎわったものだが、今はもうその面影はない。常連のお年寄りと週末のわずかな観光客ぐらいで静かなものだ。日々の売り上げも老いた両親の小遣い程度でしかない。
 まつりが終わって、父いわく。「二日間ともイモん子洗うごとあったぞ(多くて混雑したぞ)」。温泉サイドからすると、いくら循環湯ではない良泉質の湯が自慢とはいえ、一度にどっと人が入るとお湯も濁るし、湯量も減る。この時だけのお客さんが満足されたか心配だ。ふだん二百円、この日は百円。どうせなら、きれいなお湯に入っていただきたいのだが・・・。
 少し前、くま川鉄道を取材する機会があった。人吉─湯前駅間を結ぶ同鉄道は、平成五年、JRから第三セクターになった。利用客の八割は学生。一般の乗客は年々減って経営的には厳しいという。しかし、沿線の学生の通学の足として、なくてはならない。なくすわけにはいかないのだ。会社の方が「沿線住民が年に一回利用するだけで、経営的に安定する」と話されたことを思い出す。
 歴史や文化と同じように、温泉や鉄道といった地域の産業や交通も大事にしなければならない。そのためには、それが一過性でなく、生活の一部になっていなくては。人の暮らしに生きてこそ、残っていくのだ。鉄道に乗って温泉へ行こう!

(平成15年(2003年)5月15日(木曜日) 熊本日日新聞 夕刊「きょうの発言」 文:有地 永遠子)

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