熊本日日新聞コラム「きょうの発言」記事
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個性が消えない合併を


 久しぶりに杉松悟さんとお会いした。私が人吉球磨で出会った多くの人の中でも五本の指に入るヨカ男だ。杉松さんは、山江村住民ディレクターで、ボランティアで村のために力を注がれている。
 杉松さんとの出会いは、昨年十一月から今年一月まで山江村で行われた「出前むら役場」。これは「村の将来像を住民全員で考え事業を興そう」という趣旨。村内を公民館ごとに、村長と役場担当者、住民ディレクターの方が出向き直接住民と意見を交わすというもの。私はそのお手伝いをさせていただいた。
 「出前むら役場」が終わった後、私は住民から出たアイデアの裏付けのため、杉松さんと一緒に確認取材をすることにしていた。その杉松さんから先日「秋内さんのところのシャクナゲの咲いたげなですよ」と連絡があった。秋内さんは、自宅にシャクナゲ約四十五本を育てられていて花のころにはちょっとした名所になっている。
 以前取材をした時は花の時期ではなかったが、電話を受けて秋内さん宅を訪問すると、自宅横の斜面にシャクナゲが、赤や白、桃、黄、色とりどりの花をつけていた。ご自慢の花を一つ一つ説明される秋内さんの表情はうれしそう。帰りにシャクナゲのつぼみを一輪頂いた。
 山江村に通って三〜四カ月だろうか、取材に行く度に後部座席には花や野菜やお饅頭が乗っている。どこででも温かく迎えてもらうのだ。まだまだ知らない事もたくさんあると思うが、私はこの村が大好き。
 山江村は、人吉下球磨六市町村の合併法定協議会に入ることをやめた。現在全国で町村合併が進められているが、大きな都市に小さな町や村が吸収されて温かい個性が消えてしまわないよう祈りたい。

(平成15年(2003年)4月17日(木曜日) 熊本日日新聞 夕刊「きょうの発言」 文:有地 永遠子)

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