熊本日日新聞コラム「きょうの発言」記事
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本物の「食」は残る


 今年、人吉・球磨で県民文化祭が開かれる。そのテーマの一つに「人吉球磨・暮らし伝え づくり」というのがある。地域の伝統料理をレシピとして残すだけでなく、伝えられた背景や伝えてきた人たちまで含んだ「食文化」を残そうという趣旨だ。
 九州自動車道の人吉インターチェンジが連結する人吉市の通称・農免道路沿いに最近、次々と郊外型のディスカウントストアやスーパーが建ち、様変わりを続けている。
 その中にある「グリーンハウスふれあい市(人吉市ふれあい良心市組合)」は、市内の農家の女性八十七人でつくる農産物の直売店だ。「地産地消」「スローフード」を実践。大型店乱立の中にあって地道に頑張っている。
 地元の食の名人による料理教室で、その「グリーンハウス」で農産加工品(総菜やお菓子)を作っている片岡賢子さんが講師を務めた。
 教室の翌日、片岡さんの仕事場に取材におじゃました。片岡さんはちょうど、おからコロッケを揚げておられた。ちらし寿司の具を使った熱々のコロッケは、イモと違ってサクサクとしてヘルシー。
 続いて、片岡さんの原点であるご自宅の田んぼや畑を見学に行った。ご主人が笑顔で迎えて下さった。ご夫婦の後ろには、八月に収穫を迎えるというコシヒカリが、ひざの高さまで青々と成長していた。
 その風景の中にいると、片岡さんが作る饅頭やコロッケがおいしい訳が理解できる。それは、片岡さんが大切に育てた元気な稲や野菜だから、そして心を込めて作っているお饅頭だから。食べるものへの安心があるからなのだ。ディスカウントも時には良いけど、それでも本物は残っていく。頑張ってほしい。

(平成15年(2003年)6月12日(木曜日) 熊本日日新聞 夕刊「きょうの発言」 文:有地 永遠子)

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