熊本日日新聞コラム「きょうの発言」記事
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42歳、カラダ張ってます


 ガードレールを跨いで、急な斜面を恐る恐る下る。恐る恐るとはいえ、前を案内するリバーガイドに後れを取るわけにはいかない。何より、眼下の「瀬」に入るラフティングボードをカメラに収めなければならないのだ。今日は、情報誌五月号の目玉企画「体験・ラフティング(仮タイトル)」の取材だ。
 長い年月、球磨川の流れで荒く削られた岩場は、手をかける所さえない。カメラが岩に「カッ」と当たる。この時点での命から二番目に大事なカメラ。多少の肉体的な怪我はどうにかなるが、カメラを壊すわけにはいかない。取材の貴重な記録が、パーになる。
 つい数年前まで、ほとんどがデスクワークだった。情報誌をつくることになって、これほど体力勝負の仕事が増えると思わなかった。ガイドが手を差し伸べてくれる、男性に手を差し伸べられるなんて・・・何年ぶりか(ウフッ)。な〜ん、大丈夫!四十二歳、まだまだ若者の手は必要ない。
 撮影ポイントに着く、見上げるとガードレールは、はるか上。下りるときは気付かなかった菜の花が揺れている。ガイドがオールを上げて合図をすると、上流からスタッフを乗せたボートが波間に姿を見せる。
 午前中の太陽はあいにくの逆光だが、しぶきを上げて躍る波が銀色に輝きまぶしい。「キャー」とも「ワー」ともつかない歓声。これぞ球磨川の醍醐味だ。
 ラフティングができる川は九州では球磨川だけという。私のガイドは北海道出身。球磨川に惹かれて多くのガイドが、全国から集まってくる。ガイドが言う「球磨川は懐が深い。スリリングだけど安全」。
 ゴールでスタッフを待つ。スタッフの顔に笑顔が溢れる。春の水も風も花もすべてが私たちを包んでいる「う〜んよか仕事」。

(平成15年(2003年)4月3日(木曜日) 熊本日日新聞 夕刊「きょうの発言」 文:有地 永遠子)

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